コラム記事・研究会レポート
医療塾 第8回「ホリスティック医学とエビデンス」
2014/06/25
医療塾
医療従事者のための「ホリスティック医療塾」
2014年2月23日(日)於:関西医科大学滝井病院 本館6階講堂
◎レポート:愛場 庸雅(日本ホリスティック医学協会理事)
第8回「ホリスティック医学とエビデンス」
「代替医療には科学的なエビデンスがない」というのがよく聞かれる批判です。一方、エビデンスがあると、科学的で、絶対的真実で、無条件にそれに従うべきであると考えがちですが、それも誤解です。今回は、竹林直紀先生(アイプロジェクト統合医療研究所・ナチュラル心療内科クリニック)に、「ホリスティック医学とエビデンス」のミニレクチャーをしていただき、愛場がEBM(Evidence based medicine)における、エビデンスのレベル、研究・評価方法、ガイドラインと推奨度などの補足説明を行った後に全員でディスカションを行いました。
竹林先生の講義は、一般的に陥りがちな、「科学とエビデンス」に対する誤解を中心に述べられました。 実は、「科学的根拠」という言葉そのものにも疑問があり、それはその時々の都合に合わせて使われる「二重規範」であったり、変化への不安・恐怖を解消するための「心理的バリアー」であったりします。その時点での条件付きのデータに過ぎないのに、絶対的真実という誤解を招きがちです。言葉を変えれば、「科学という名の宗教」に陥る危険性があります。
科学には、線形科学と非線形科学があります。今の医学の方法は殆ど前者ですが、これはある特定の条件のみで成立するものです。後者は複雑系科学とも言われ、自然界の現象は大部分がこちらに属します。病気は数量的評価にそぐわないもので、非線形科学の考え方で臨む必要があります。
研究方法については、量的研究と質的研究があります。現在の医学研究は殆ど前者で、後者は人類学、社会学、哲学などで使われる方法ですが、行動医学や看護領域の研究では質的研究もよく行われています。
NBM(Narrative Based Medicine)の考え方に基づくと、以下のような問題が見えてきます。臨床観察は客観的で再現可能だというのは誤解であり、ほとんどのランダム化比較試験・疫学研究も、それが実施される政治的・文化的イデオロギーにより規定される物語に影響を受けるのです。
研究の真実は、標本集団の物語であって、個々の物語ではないのですが、平均や中央値を間違いのない現実とし、変動を一過性の不完全な測定値とみなす傾向があります。ある一つの疾患を持つ全ての症例に無条件に適用できる法則はないので、医学は科学となりえないとまで言えるのです。
医学的な根拠は、医師(医療従事者)による解釈的枠組みなしには、臨床における適用はあり得ません、枠組みが変わると解釈は変わるのです。一つの根拠(エビデンス)に対して、「ホリスティック」という枠組みでの解釈をすることが必要になって来ると思われます。
ディスカッションでは、次のような意見がありました。
■現在のEBM方法論の問題
近代西洋医学においても、有効性の証明されている診療行為は1~2割に過ぎない。新薬の臨床試験、評価方法、エビデンス 構築方法に疑問がある。多剤投与の相互作用などは、殆ど検討されていない。プラシーボ効果などを含めて、客観的評価・正しい解釈をしているか、研究そのものの倫理的課題もある。一方ではエビデンスを構築するという作業も大変である。ランダム化比較試験が行えなくても、ベストケースシリーズという考え方もある。
■医療システムによる考え方の違い
西洋医学と東洋医学のように、疾患に対する考え方そのものが違う事を、同じ方法論で論じる事は困難である。漢方は非線形科学である。一方、アロマテラピーには、コクラン共同研究の評価に耐えうるエビデンスもある。医学会と心理学会でエビデンスに対する考え方が違う。癒しはエビデンスにそぐわない。
■エビデンスに対する誤解
エビデンスを黄門様の印籠と思うのは幻想で、エビデンスやガイドラインは絶対視できない。エビデンスに対する客観的評価・正しい解釈がなされていないことが多い。また「エビデンスが無い」=「効果が無い」ではない。
■エビデンスの利用法
エビデンスは、無視はできない。しかし、単純に頼り過ぎると危険である。安全パイではあるが、現実には適応できない場合もある。一方で、ガイドラインに沿わない医療もできない。エビデンスの知識は必要だが、自分の信念も必要。患者が何を望んでいるかという考え方が大切で、情報を知った上で、患者に提供するものをどうするかを考える必要がある。 「エビデンスをうまく利用する」のも方法である。有用性のある使い方を工夫する必要がある。「根拠の持つ信頼感」はプラシーボ効果があるとも考えられる。
EBMの教科書にも、臨床的判断は、患者の病態とおかれている環境、患者の価値観と行動、エビデンス、を統合して、患者にとって最も望ましい医療を提供するために意思決定を行うことと書かれています。
Prev |
一覧へ戻る | Next |