コラム記事・研究会レポート
環境にやさしいホリスティックライフの提案②
2022/07/20
ライフスタイル
地球の健康を害する食から、地球を豊かにする食へ
◎文・安珠 あんじゅ (Earth Spiral・もりとアートの学校主宰/協会理事)
食や農の現状とオーガニック
ホリスティックヘルスに関心がある方の中には、健康を考えてオーガニックの野菜を選んでいるという方も多いのではないでしょうか? オーガニックの野菜を選択するということは、人の健康だけではなく、地球の健康にも寄与することになります。
現在、日本で主流となっている農業は、化学肥料と農薬を使う慣行農法です。それにより食材は安定的にスーパーに並ぶようになり、消費者は低価格で購入することができています。しかし、新自由主義的な資本主義の流れの中で、農業も畜産も、効率化や経済性を求めるあまり工業的になり、大規模化し、植物も動物も命あるものではなく、「商品」として工業製品と同じ扱いになっています。消費者としては安定的に低価格でものが入手できるという恩恵がありますが、一方では、農薬を使った野菜、ホルモン剤や抗生物質入りの飼料を食べた家畜の肉を食べることへの抵抗感から、オーガニックなものに意識が向く消費者や、今の生産現場に疑問を持ちオーガニックに転向する農業者もじわじわと増えているように思います。
欧州などは食の安全、エシカル、エコロジカルへの意識の高まりからオーガニック市場が拡大していますが、日本では有機野菜はいまだ高価なイメージがある、環境問題への関心が低いなどにより、普及は進んでいません。また、農業従事者自体の後継者不足などから、この20年で半減しているという危機的状況を認識する必要があります。
私たちの地球は健康か?
さて、今回のテーマである「地球の健康」について、「Planetary boundaries(プラネタリーバウンダリー)」という概念をご紹介したいと思います。
これは、地球の健康に関わる9つの分野とその限界値などを設定し、定期的に評価していく指標です。現在の調査中の項目もありますが、「気候変動」「生物多様性の損失」「生物地球化学的循環(窒素とリンの循環)」「土地利用変化(森林の減少)」の4項目がすでに地球の限界値を超えているといわれています。
慣行 農業や工業的畜産はこの4つすべての項目を悪化させることに寄与しています。化学肥料の大量使用が「窒素とリンによる海洋汚染」の一因となっています。
また、農薬の使用により周辺の「生物多様性を損なっており」、畜産用の飼料となる穀物生産のための森林伐採も「森林の減少」「生物多様性の損失」に影響を与えています。大規模に機械化された農業や工業的畜産では温室効果ガスの排出も少なくありません。
最先端はSustainableではなく、Regenerative(リジェネラティブ)
社会的に効率性や経済性を中心に物事を考え、方向性を決定していく流れを止めるのは、なかなが難しくもありますが、ここでもう1つの概念をご紹介したいと思います。
「Regeneration(リジェネレーション)」という言葉です。「再生」を意味し、環境活動家のポール・ホーケンは「命をすべての行動と決定の中心にすえること」と言っています。
農業分野では、Regenerative Agriculture(リジェネラティブ アグリカルチャー)という言葉が使われるようになってきました。地球の健康を害する農業から、地球の健康を再生する農業に変えていこうという流れです。ここに有機農業や動物福祉に基づく畜産が含まれています。
地球はすでにサスティナブルの限界を超え始めています。そして地球は一刻も早く人間がリジェネラティブなライフスタイルへの転換を決心することを待っているのではないでしょうか。
*ここでは化学合成肥料や農薬を使わないもの、有機栽培、無肥料無農薬にものをまとめて「オーガニック」と記します。
● 地球の健康を考えるためのキーワード
【Regenerative(リジェネラティブ)】再生
「リジェネラティブ経済」「~経営」など、農業分野や地球環境だけではなく、意思決定の中心に「生命」を置く考え方として、様々な分野で使うことができる概念。
また「農」の分野ではアグロエコロジーやパーマカルチャーなども、リジェネラティブな志向を持つものと言える。
【Animal Welfare(アニマル ウェルフェア)】動物福祉
畜産で飼育する動物の扱いを健全にする取り組みから広まった概念。肉を購入する場合、環境負荷の高い工業的畜産で生産されていないか?
動物福祉に配慮しているか否かに消費者として意識を持つことが重要。
● 消費者としてできること
・日々の自分の買い物の選択に自覚的である
・ベランダ菜園や貸農園など自分で野菜を育てる
・有機農家の情報を得る、つながる、支える
・日本政府の農政に関心を持つ
『HOLISTIC MAGAZINE 2022』より
Prev |
一覧へ戻る | Next |