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ホリスティック医学を未来につなぐ (帯津先生インタビュー)
2016/03/15
コラム > 私のホリスティック観
(おびつりょういち)
帯津三敬病院名誉院長。帯津三敬塾クリニック主宰。
日本ホリスティック医学協会名誉会長
2015.11月取材インタビュー
これからの協会について、ホリスティック医学の未来について、帯津先生がどんな絵図を描いていらっしゃるか、その課題も含めて、ざっくばらんにお話しいただきました。(インタビュアー 岸原千雅子)
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●人材と西洋医学の拡充
帯津:まず、ホリスティック医学を進めるうえで、やはり問題は人材でしょうか。
先日、理事会で思いがけない発言がありました。理事会といっても、出席者は院長と事務長と私と、それから事務の統括部長の4人なんですが、そこで「近頃、緊急の患者さん、救急車で運び込まれる人が減っている」という話になった。夜間や日曜は埼玉医大の若手がアルバイトで当直してくれているわけですが、1人ではどうしても手に負えないこともあるので、急患を断ってしまうことが多いというんです。それはこちら側の不備だし、経営的にもよその病院の受け入れ態勢を参考にして、整備する必要があるのではないか、という話になったわけです。 すると、脳外科担当の院長が「救急への対応も必要かもしれないが、うちの病院は帯津先生のいうトータルに人を診る、緩和的な病棟をもっと充実させることが重要だ」と言ったんです。
緩和というのは、治療法がなくなったから行うものじゃないんですよね。もともと医療というのは緩和なんですよ。人間をまるごと診て、寄り添って、その人を癒していくわけですから、私は一般に使われているような狭い意味に特定しているわけじゃなかったんだけど、院長がそれを理解してくれていたなんて思わなかった。これは頼もしいなと思いましたね。
岸原:帯津先生の志をそんなふうに受け継いでくださっているんですね。
帯津:そういう志を共にしてくれる人が、もっと増えてくればいいと思います。うちでは医療従事者の中で一番志が高いのは看護婦さん。「ホリスティック医学をやりたいから」と言って、私の病院に就職してくる看護婦さんがけっこういるんですよ。
ところが、中には誤解している人がいて、抗がん剤を使うでしょ。そうすると「ホリスティックじゃない!」と言って、幻滅して辞めていく看護婦さんもいる(笑)。そう言われても、抗がん剤をやらなければいけない患者さんもいるし、西洋医学は手術だってやらなければいけないからね。まだまだ人材不足です。
岸原:帯津三敬病院には、日本中のホリスティック医学を目指している医療者、あるいは職員の方がキャンセル待ちでも働きたいと、続々と集まってくるものと思っていたので、人材不足というのが、すごく不思議な感じがします。
帯津:ひとつの理由は給料が安いから(笑)。うちの心理療法はかなり伝統があって、優秀な臨床心理士が何人もいました。でも、辞めてしまう人がいた。これは給料の問題より体制の問題で。
リラクセーションや音楽療法などを熱心にやってくれたけれど、すぐに成果が出ないそういう療法を、当時の総婦長があまり理解していなかった。それじゃあ、やりにくいですよね。鍼灸師さんの仕事だってそうです。院内でしっかりサポートしないとダメです。
診療体制も設備や治療技術も充実させて、「なんでも来い」という受け入れ態勢ができないといけない。うちでも一般的な手術は何でもやるし、抗がん剤のエキスパートもいることはいるんですよ。 けれど、樹状細胞療法や重粒子線・陽子線治療などは、よその専門クリニックにお願いしている。よそに頼んでいるようでは、患者さんだって落ち着かないですよ。
粒子線治療はピンポイントに治療できるから、周りの正常な組織をどこも傷つけずに済むわけです。ところが、設備を入れるとなると300億かかるという。これは大変なことですよね。だけど、目指さなくてはいけないだろうと。
ワイルさんが言うように侵襲が大きい治療法は、つまり人間の尊厳を引き裂くような治療法は、どんどん捨てていかないといけない。だから、本当は抗がん剤なんか、早くなくなったほうがいいんです。あれは人間の尊厳をものすごく傷つけるから。 手術もそうです。食道がんが人差し指の頭くらいのがあるだけで、胸を開けて、腹を開けて、首を開けるんですからね。今、山中伸也さんなどがやろうとしている再生医療も、侵襲がそんなに大きくないから、やったほうがいいと思うんですよね。そういうことを同じ病院の敷地の中でやっていきたい。
●教育機関を創設したい
帯津:それと、やはり私は教育機関が欲しいと思っています。夢みたいだけど、ホリスティック医科大学やホリスティック医科看護大学。これは何とか手をつけようと思っているんです。
一般大学に代替療法学部を作ろうという話が出たこともあるのです。即席で人材を養成するのではなくて、4年制でしっかりと代替療法全般を学ぶ。医学部ではないから医者にはなれないけれど、将来、理想の医療として「治しと癒しの統合」が行われるときに、治すほうの医者がいっぱいいても、癒しの代替療法をしっかり勉強した人が少ないのでは困る。だから、そういう人材を世の中に送り出す学部を作りたいですね。
4年間で代替療法の哲学から実践までをしっかり学ぶのだけど、その代りひとつだけ養生法を身につけるようにしておきます。
岸原:4年制だと一般教養も学びますし、すべてにホリスティックな代替療法の基盤を作っていく濃い教育ができたら、素晴らしいですね。 ですが、その学部を卒業した代替療法家が、病院の中でどうやって保険診療を賄うかという点については、どんなふうにお考えですか。
帯津:卒業生の需要が増えればいいわけですよ。私の病院のように、心理療法士も欲しいし、鍼灸師も欲しいというのと同じように、病院の中に代替療法に詳しい人が1人いるといいな、ということを実感する人が増えれば、需要が大きくなるんですけどね。 私が「養生の実技を1つ身につけるようにする」と言ったのは、病院への就職がうまくいかなくても、身につけた技術で食っていければいいだろうと思ったからです。食う算段のために養生法を1つ身につけたほうがいいと(笑)。
岸原:今日はその辺の、ホリスティック医学という志の医療を、現実的に経済面も含めて、どうやって発展させていくかというお話をうかがえるといいなと思っていました。帯津先生はその生き字引みたいな存在なので、皆さんも帯津先生の後ろ姿を見ながら、実践していけると思うんです。
●フランス哲学とホリスティック医学
帯津:最近読んだ書物から、世界のホリスティック医学の基を作ったのは、フランスの哲学者たちだということが分かった。アンリ・ベルクソン、ガストン・バシュラール、ジョルジュ・カンギレム、ミッシェル・フーコー、このあたりの哲学者です。
ベルクソンは分析的な医学に異議を唱えたわけです、もっと人間を丸ごと見ようじゃないかと。そして、カンギレムは病気というのは臓器の問題じゃなく、「生の歩調が脅かされる」こと、これが病気なんだと書いています。「生の歩調」というのは、たとえばベルクソンの言う「生命の躍動」と思ってもいいし、あるいは「人間の尊厳」と思ってもいい。
日本では1941年に大阪大学がフランス哲学の澤瀉久敬(ルビ:おもだか ひさゆき)さんを招聘して「医学哲学概論」という講座を作った。ベルクソンが亡くなったのが1941年で、大阪大学に講座ができたのがこの年ですからね、おそらく澤瀉さんはベルクソンをよく知っていたと思います。それで医者に哲学がどうしても必要だと。
「医学哲学概論」の講座ができたのは1941年の3月。その年の12月に太平洋戦争が始まったので、非難ごうごうでした。「若者が戦地でお国のために戦っているのに、大阪大学の医学部は哲学なんていう余計なことを教えている」と。だけど、澤瀉さんは一歩も退かなかったんです。学生たちに「あなたがたは哲学を身につけたいい医者になって、お国に恩返しをすればいいのだから、気にするな」と言ったというんだから、昔は骨っぽい人がいたなと思いますよ。 医者が哲学を学ぶということは画期的なことなので、こういう動きがもっと広がってくれればいいんだけど。
●生命の躍動がもたらすもの
岸原:ホリスティック医学は1960年代、70年代にアメリカ西海岸で興ったホリスティック運動からスタートし、ホリスティック医学協会もワイルさんの本を基に作られているわけですが、それをさかのぼった時代のフランスで興った、ホリスティック医学における哲学をきちんと把握すると、志や教育にもいい影響を及ぼすと思います。
帯津:ベルクソンは「生命の躍動が起こると、喜びに包まれる。その喜びはただの快楽ではない」と書いています。そして「必ずそこには創造が伴う」と。じゃあ、何を創造するのかというと、「自己の力で自己を創造するのである」と書いてある。これ、自己実現でしょ。喜びと自己実現といったら、やはり生命を生命たらしめている基本のところですよ。
私は「ときめき」が大事だと言ってきました。「ときめき」が自然治癒力や免疫力を高めるということを、私は経験的にわかっていますが、ベルクソンの「創造を伴う」というところに鍵があるなと思いましたね。 さらに彼は「これだけのことをやっているのは、現状に満足するためじゃなく、将来に備えているんだ」と言っている。じゃあ、将来に備えている、その将来とは何か。「来世である」と書いてある。死後の世界まで考えているんですよね。 そのベルクソンは、ダーウィンの『進化論』に異を唱えたことで知られています。ダーウィンの『進化論』も燦然と輝く立派な功績だけど、いろんな立場から見れば問題はあると。自然淘汰だけで進化を説明するのは、ちょっと不十分だと。やはり生物、生命たらしめているのは内なる衝動力みたいもの、こう突き上げる力であると。いいことを言うなと思いましたね。
●このまま地道にこつこつと
岸原:先生、最後にお聞かせいただきたいのですが、ホリスティック医学協会の今後に対して、どんな期待や希望をお持ちですか。
帯津:私が関わっているほかの学会を見ても、ホリスティック医学協会は一番好感が持てますよ。地味だけど、みんな真面目です。これは大したもんですよ。いいんじゃないですかね、今のままで。これを堅持してもらえば。今のままできちんとひとつひとつ仕事をやっていけば、だんだん認められていきますよ。
岸原:今日うかがったような哲学的なことや、こういう骨組みでホリスティック医学をやっていくといいんじゃないかといったお話など、これからも、またしていただけると私たち、すごくうれしいなと思います。
帯津:ええ、それはかまいませんけど、本当はね、夜がいいんです、一杯飲みながら。だけど、夜は3カ月くらい先まで予定が入いっちゃって。みんな川越に来るのが億劫だから、池袋で捕まえようとするんですよ(笑)。
岸原:すみません、今日も池袋で捕まえて(笑)。貴重なお時間を、ありがとうございました。
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