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ナイス・エイジングに如くは無し

2020/01/20
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文・帯津良一(おびつりょういち)

大ホリスティック医学を提唱して、今年の5月で4年目に入った。これまでの3年間を振り返ってみると、ありがたいことに明らかにわが病院の場のエネルギーは上昇の一途を辿っている。

医療とは患者さんを中心に家族、友人、そしてさまざまな医療者が織り成す場の営みである。当事者のすべてが自らの内なる生命場のエネルギーを高めながら他の当事者に寄り添うことによって共有する医療という場のエネルギーが高まる。するとその場に身を置くすべての当事者の内なる生命場のエネルギーが高まる。すると・・・・・・という好循環が生まれる。その結果、患者さんは病を克服し、他の当事者もそれぞれ癒されていく。これが医療なのである。

わが病院の場のエネルギー向上の要因は一人ひとりの当事者の意識改革に求められるものであるが、3年の間に形となって現われたものを挙げるならば
① 4人の志の高い医師の参加
② 64人のこれまた志の高い看護師の参加。蛇足ではあるが、ホリスティック医学を目指す看護師は美人が多いということも場のエネルギー向上の一因になっている。
③ 3人のソーシャルワーカーの獅子奮迅の活躍
④ 理学療法士と作業療法士合わせて7人のどこまでも患者さんに寄り添おうとする志。
などである。

老化は大自然の摂理である

また、大ホリスティック医学の提唱とほぼ軌を一にして、認知症についての勉強が始まる。
元来、認知症は専門外であり、それまでは対岸の火事のような存在であったのが、人々の間で認知症に対する脅威が高まりを見せ、がんに対する脅威に迫りつつあるのをがん治療の現場で肌で感ずるようになったのである。好むと好まざるとにかかわらず認知症についてとつおいつ考えている時に突然閃いたのである。認知症は病というよりも老化現象ではないかと。

老化現象となると人間まるごとの問題である。ホリスティック医学に携わる者が坐視していてはいけないのではないか。治療は専門家に任せるとしても、その予防には大いに腕を揮うべきではないかのか。そこで猛然と勉強を始めた次第である。
そこでまた気が付いたのである。老化は大自然の摂理である。いくら抗っても最後はやられてしまう。負け戦であることは最初からわかっているのである。アンチ・エイジングなど空しいこと夥しい。アンチではなく老化に身を任せながらも、より良く老いていく。老いを素直に受け止めつつ、いのちのエネルギーを日々勝ち取っていくのである。これをナイス・エイジングと名付けた次第である。

ナイス・ショット、ナイス・ガイのナイスである。そこには胸のすくような小気味好さが伴っているのである。ナイス・エイジングこそ貝原益軒のいう“人生の幸せは後半にあり”を実現する鍵なのだ。

さらにもう一つ気付いていたことがある。認知症の予防法を極めれば極めるほど、がんの予防法に似て来るのだ。ということはがんもまた老化現象の内なのか。もう一歩踏み込んで想像を逞しゅうすれば、すべての病は老化という大河の岸に咲いた徒花(あだばな)なのではないだろうか。
とすればすべての病の予防はナイス・エイジングに尽きるということになる。あれは駄目、これは駄目などという小細工はさらりと捨ててナイス・エイジングに徹しようではないか。ということでナイス・エイジングに如くは無いに至ったのである。

私のナイス・エイジング

ナイス・エイジングは人によって異なる。どのような志をもって人生に対峙するかは人それぞれだからである。そこで一例として、現在歩を進めている私自身のナイス・エイジングを紹介したい。
まず、からだに関しては、労働の楽しみをできるだけ長く保持するために下半身の衰えを極力防ぐ。太極拳に親しみ、牛肉や納豆のような良質の蛋白質と昆布だしのような良質のカルシウムを適宜摂取しながら、こまめに動く。食についてはあくまでも貝原益軒流。好きなものを少し食べ、晩酌を楽しむ。
こころに関してはなんといっても心のときめきだ。最後の晩餐、執筆、太極拳、恋心に、折々、本居宣長のもののあはれに浸ることだ。
いのちに関しては基本は気功である。功法は優劣無しとはいえ、殊更、楊名時太極拳と『新呼吸法「時空」』に力を入れている。楊名時太極拳は套路(とうろ)と原穴の刺激であの世とこの世を結びつけることによって、「時空」は常に虚空を意識し虚空と一体となることによって、ホリスティック医学の究極、生と死の統合を目指すからである。

以上、私個人のナイス・エイジングをまとめてみた。しかし人それぞれといってもそこには自ら共通項が存在する。共通項とは何か。まずは大ホリスティック医学の原点に立ち返ってみたい。さしずめ原点となると、分析を超えて直観の重要性を説いたH・ベルクソン。霊性を中心に据えたR・シュタイナー。全体を観るに最も重要なのは“場”の概念であると説いたJ.C.スマッツ。全体とは関係性の無限の拡がりであるとした西田幾多郎の4人であろうか。いずれも19世紀後半生まれの同世代人であることが興味深い。

ということで、ナイス・エイジングの共通項は
 ① 分析を超えた直観
 ② 人間存在の中心に据えられた霊性
 ③ 自然界を構成する場の階層と虚空
 ④ 関係性の無限の拡がり
の4点としておきたい。

『HOLISTIC News LetterVol.105』より

帯津 良一 (おびつりょういち)
帯津三敬病院名誉院長、帯津三敬塾クリニック主宰。1936年生まれ。東京大学医学部卒業。医学博士。東大病院第三外科医局長、都立駒込病院外科医長を経て、82年埼玉県川越市にて開業。西洋医学に中国医学、気功、代替療法などを取り入れ、人間をまるごととらえるホリスティック医療を実践している。日本ホリスティック医学協会名誉会長。著書『死を思い、よりよく生きる』(廣済堂出版)、『ホリスティック医学入門』(角川書店)、『代替療法はなぜ効くのか』(春秋社)、『後悔しない逝き方』(東京堂出版)他多数。